HCD-Forum2015に参加しました。

SEP 14, 2015 / Written by TAKUYA ABE MEDIA, REPORT

FOURDIGIT DESIGN、デベロッパーの阿部です。

2015年5月30日~31日、東海大学高輪キャンパスにおいて人間中心設計推進機構(HCD-Net)によるHCD-Forumシンポジウムが行われ、弊社CEO田口がセッション「自身の成長、自身に関わる人たちの成長、そして組織の成長」にて登壇いたしました。HCD認定専門家3人の事例紹介とパネルディスカッションからなるセッションです。

今回、田口に同行し登壇者のみなさんのお話を伺う機会を得られましたので、たいへん遅ればせながら、このセッションの様子を紹介させていただきます!

Yahoo!不動産新築マンション検索アプリHouseeSプロジェクト事例
田口亮(株式会社フォーデジットデザイン、クリエイティブサーベイ株式会社)

田口は、Yahoo!不動産新築マンション検索アプリHouseeSの事例を、「与件から提案」「UI作成とブランドとテスト」「開発からロンチ」の三つのフェーズに分けて紹介しました。当サイトに掲載しているケーススタディと重複する内容もあるので、興味のあるかたはぜひケーススタディをご覧いただければと!

それでは、株式会社DeNAの和波里翠さんによるグラフィックレコーディングでざっと内容を掴みつつ、HCDフォーラムならではの田口の発言をピックアップしてご紹介します。

・「HCD専門家」というつかみ

名刺にある「人間中心設計専門家」という肩書きを人に提示すると、人間中心設計専門家ってなんですか、と、耳なれないことばについてクライアントに質問されることで、それを説明する時間が与えられます。そこで、人間中心設計・UXデザインについて説明し、こういう風なやり方をしましょうということを共有することができます。実はこれは結構大きくて、表面的なデザインの視点だけでやってませんよ、というアナウンスができるわけです。

・ユーザーテストは自分の目で見る

人間中心設計において重要なことは、実際にやってみること、自分で参加することです。ユーザーテストにおいては、見ていない場所でテストを行わせてそのレポートを読むというかたちは最悪で、ユーザーが実際に使っている様子を作る人が見ることが大事です。それが叶わない場合でもできるだけそれに近い形が良いですね。

・実は成功案件ではなかった

HouseeS、実は昨年末サービスを終了してしまっており、成功事例とはいえません……。プロダクトとしての視点からは高いクオリティを目指して制作することができましたが、このアプリがどうやったら成功するか、ビジネス的・マーケティング的観点の課題もありました。アプリプロジェクトやWEBサービスは、いろんな要因によって成功というものが成り立っていることを再認識しました。ものが良ければ成功ではなく、消費者から見た全体のUXとして質が高くなければいけない。最近、サービスデザインの重要性が注目されていますが、そのような観点の必要性を、成長の必要な方向の一つとして実感した結果となりました。

こうした形でHCDについての田口の意見をまとまった形で聞く機会はあまりなかったのですが、あらためてその考えを聞くことで、提案・設計・実装プロセスのなかでHCDのために重要な点を実感できたように思います(とは言っても、「実際にやってみること、自分で参加すること」が大事なので話を聞くだけではいけませんが笑)。

HCD専門組織の活動事例
菅野歩(ソニーデジタルネットワークアプリケーションズ[SDNA]株式会社)

次の発表はソニーデジタルネットワークアプリケーションズ(以下SDNA)UX技術課に所属の菅野歩さん。SDNAはソニー内でソフトウェア開発を行っている企業です。UX技術課ではUI設計・UXデザインの専門家チーム。10年ほどそのチームで活動しているとのことです。UX技術課15人中、認定専門家は5名が取得。
菅野さんの発表はそうしたHCDの専門家集団としての、チーム内での情報共有と、チーム外も巻き込んだ情報発信とコラボレーションとについてのものです。和波さんによるグラフィックレコーディングはこちら。

では、菅野さんが発表された内容を具体的に見ていきましょう。

・チーム内での情報共有
UIレビュー:

UI検討の際、ユーザーテスト、ベンチマーク、ベストプラクティスの活用、等々の手法がありますが、UX技術課ではこれに加えて、チームレビューを活用している。UIについて課題がある際に、UX技術課内のWikiに相談を投げることで、メンバーがコメントを返してくれるという形式でおこなっておりメンバーからは半日〜1日でレスポンスが返ってきます。

課内勉強会:

2週間に1度、UX技術課ではメンバー持ち回りでの勉強会をおこなっている。そうした勉強会は、レクチャー形式の場合もあれば、ワークショップで実際に手を動かしてみることもある。
レクチャーのテーマはデザイン思考についてであったり「UX戦略白書」を読む、といったことから技術的なこと、ファシリテーションのやり方等々、UX関連のさまざまなことがらに及びます。
ワークショップ形式であれば、例えばたくさん登場しているプロトタイピングツールのなかからひとつえらんで使ってみるといった、実際に手を動かすことを行っています。

Wikiでの暗黙知・ノウハウの整理:

UX技術課は、課でまとまって動くというよりは、ソニーグループ内外の各プロジェクトに、それぞれで参画するという動き方になっています。そうしたなかで、そのひとの中にしかない知見・経験は、そのままでは暗黙知のままになってしまいます。そこで行っている取り組みが、Wikiを活用した知見の共有です。日報・週報に業務での気づき・教訓を書き留める際、それに「tips」タグをつけてそのタグが付いている情報を集積・一覧化できるようにしています。

ニュースやトレンドのシェア:

UX関連の情報収集においては、RSSで国内外メディアをチェックしたり、Googleアラートで「UXD」「ユーザビリティ」といったキーワードで情報を拾ってくるようにしています。しかし、情報が多いなかでは当然ノイズも多くなってきます。UX技術課では、チームメンバーの一人が、集めたフィードのなかからキュレーションしており、2012年からその取り組みを続けてくれています。

・情報発信とコラボレーション
社内イベント「UX Week」:

UX専門家の仕事は、それ単体ではなりたたないものです。UX技術課の関わる仕事は規模の大きいものを、たくさんの関係者をまきこみながら作るものであり、それぞれのUXにおける認識を合わせることは重要なこととなります。
そこで、昨年12月、課内だけでなくソニーグループやクライアントまで巻き込んだ情報発信として、社内イベント「UX Week」を開催しました。ソニーグループのみならず外部クライアントも参加できるイベントです。
もともとは、「勉強会でやっていることを課内のものだけにしておくにはもったいない!」という、課内メンバーの声から始まったものでしたが、事前にどのようなセッションを聞きたいかアンケート調査し、特設サイトを設置し、一週間のあいだ毎日4セッションという規模で行った結果、参加者の満足度の非常に高いイベントとなりました。

菅野さんのお話はUXの専門家集団における情報共有・発信についてのものでしたが、こうした取り組みはUX・HCDに限らず重要なことです。UX技術課で取り組んでいる事例を伺うなかで、日々の業務があるなかでの情報共有は、その仕組みづくりとメンバーのモチベーションの両方が重要であることをあらためて認識させられました。

山岸ひとみ(株式会社Gaji-Labo)

3番目に登壇したのは山岸ひとみさん。「HCDで組織を育てる」と題された発表です。
山岸さんのGaji-Laboはメンバー6名(2015年5月30日時点)、2010年設立の若い会社です。「システムを考える会社」を掲げ、スタートアップの開発支援、ウェブ制作やアプリケーション制作、ワークショップ関連事業といった事業をおこない、あらゆる「システム」を考える仕事をしているとのこと。
山岸さん自身は人間中心設計専門家に加え、認定ワークショップデザイナーという資格も取得しており、それが今回の発表のキーポイントになっています。

では、山岸さんの発表を見ていきましょう。

・小さな受託会社の長所と短所

Gaji-Laboはとても小さい会社であることで、あらゆる業務に携わるチャンスがあるという長所がある一方、教育システムは整備されていないという短所があります。また、Gaji-Laboの行っている受託開発というビジネスモデルにおいては、さまざまなプロジェクトに関わることができるという長所がある一方、各プロジェクトに個々でコミットするのでメンバー間でのノウハウの共有がしづらいという短所があります。

・組織として成長するための「ワークショップ」

そうしたなかで組織としてどう成長するかの一つの答えとしてたどり着いたのが、「ワークショップ」でした。「自分たちが作りたい会社のこと」「身体性を意識してコミュニケーションを捉え直す」「オフィス移転プロジェクトについてみんなで考える」「HCDへの理解を深める」といったテーマでワークショップを行うことで、組織の力の底上げをはかっています。

・ワークショップの事業への展開

そうしたワークショップへの取り組みは、当初としては会社の組織に役立てようとしてのことでしたが、そのまま事業へと繋がっていきました。文化庁メディア芸術祭関連での小学校でのメディアアートを楽しむワーク、スタートアップ企業向け合宿ワーク(実際に売り上げの向上がみられ好評でした)、福祉施設のグランドデザインための事業所横断的ワーク(福祉の場にブランディングを取り入れ、それとともにチームビルディング・ビジネス的視点にもつなげる)、といった事業に展開しています。

・会社や組織もひとつのシステムとして、HCDを適用する

このように事業を広げてきたGaji-Laboですが、これから組織を成長させてゆく方向性として、正解はまだ見えないながら、会社や組織もひとつのシステムとして捉え、育てていく、ということを目指しています。会社や組織もひとつのシステムとしてとらえ、HCDの考え方を自分に、そして組織に適用してゆく、そうすることで自分や組織の成長につなげていきたいと考えています。

HCDを、WEB制作だけでなく会社や組織にも適用しようという考え方は非常に魅力的ですね。HCDに「ワークショップ」を組み合わせることは、HCDの可能性をそうした方向に広げてゆける強力な武器となるように感じました。

パネルディスカッション

最後は田口、菅野さん、山岸さん、そして安藤昌也さん(千葉工業大学)の4人でのパネルディスカッションが行われ、「自分に続く人間中心設計専門家を育てるには?」「どうやってHCDへのモチベーションを育てる?」「ビジネスをやっていくなかでHCD-Netのコンピタンスは全部いるの?」「専門家として後輩にあたる人には何を求めたい?」等々の議論へと展開しました。

次に続く人材を育てるには

組織のなかで自分に続く人間中心設計専門家を育て、中核となって回していける人材を育てるにはどうすればよいのか、まず第一の話題にのぼりました。
田口は「社内では、HCD関連の書籍をそろえたりイベントに誘ったりと、気づきになりそうなアイテムをまわりにおくなどは意識はしているが、それだけでは根本的な浸透にはいたらず、個人のモチベーションによってどうしても差が出てきてしまうので、案件の中でユーザーモデリングやジャーニーマップとかいわゆるフレームワークなどで理解を深めていってもらう」ようにしていると回答しました。逆に田口から菅野さんへ、チームで何名も専門家を抱えるのに至った理由に対して質問になりました。

モチベーションをつくるには

根本的にどう学びたい気持ちを醸成するかという問題については、どうやっていけばよいのでしょうか。
認定専門家5名をチームに抱える菅野さんは、「特に給与や職位における制度を設けていないながらも、個々で自然発生的に認定専門家の試験をうけている」とのこと。「ソニーグループ外での仕事が出てくる中で、外にも目を向けないとというモチベーション」があったとおっしゃっています。

HCD-Netのコンピタンスは必要?

山岸さんからは、「HCD-Netで定められているコンピタンス(HCD-Netの認定専門家、認定スペシャリストとしての専門的能力はほんとうにすべて必要なのか?(参考資料 ※PDFが開きます)」、という疑問が出されました。
「ビジネスのなかで、早く出して早く回収するということが求められ、リサーチやプロトタイピングばかりをやっているわけにはいかない」という状況のなかで「コンピタンスぜんぶいるのかな」と疑問を感じており、それゆえに、「Gaji-Laboの他のメンバーには、認定専門家を目指すよう強くは言えない」とのこと。
こうした意見について田口からは、「コンピタンスとしてもとめられることがらは、困った時にこういうアイテムがあるよ、という土台になるものであり、まず知識としては絶対に持っておいたほうがよい」という意見が出されました。

後輩にあたる人材に何をもとめたい、何をしてあげたい?

このように、HCD-Netの定めるコンピタンスが全部必要とは言い切れないかもしれないという議論ののち、では専門家として後輩にどのようなものを求め、何をしてあげたいかが話題となりました。
菅野さんはそこで、「それぞれの役割や適性によって、どこまで厚みのある知識や技量が個人に必要かは異なる」と指摘します。菅野さんはそこで、そうしたなかでHCDの専門家としてもとめられるのは、「HCDについて知識がまちまちであるチームをまとめ上げ、メンバーを巻き込んでいけるような能力」ではないかという意見を提出しました。
では、そのような人材をどうやって選びどうやってやる気を出させて行けばよいのか?山岸さんは、「規模の小ささのメリットを活かし、毎週一人一人と話をする時間を持つことで、それぞれがどうしたいのか把握している」とのこと。

HCD-Netでは毎年コンピタンスの定義を見直すことで時代・状況に沿うことが目指されているということで、コンピタンスはやはり専門性の一定の目安として役立っているのでしょうが、ここでの議論の中では、人間中心設計専門家という枠内で後継者を育てるというより、それぞれの組織のなかで必要な能力を育み、成長させるという、より広い視点で議論が展開されていたことが印象的でした。

最後に、登壇者・運営者のみなさんで記念写真をパシャリ。

それぞれの視点からのお話を伺うことで、専門家としての「自身の成長、自身に関わる人たちの成長、そして組織の成長」についてあらためて考える機会となりました。ありがとうございました!

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